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獄中之告白・男三郎自筆・法廷叢書 花井卓蔵閲 明治39年

本書獄中の告白は、武林男三郎が獄中みずから手記して、これを弁護士花井卓蔵君に送れるものなり。抑も武林男三郎の某殺被告事件なるものは、実に空前の疑獄にして、しかも趣味ある人生問題なり。犯罪の動機は恋愛にして、犯人は多情多感の文字ある青年なり、被害者と目せらるるものは一代の詩宗にして、恋愛の相手は絶世の美人なり。一度は〇〇池中のものとなり、最愛の一子まで挙げたる夢温き夫婦の間に、哀れ嵐の吹き荒さみ、父子夫婦離散して、父は〇〇の人となり、子は不幸の母の膝になく。その事件の趣味ありしかも人生の或ものを密語くの感あるは即ち茲にあり。事件は斯くの如し、しかも此獄を断ぜし一審の判官は、明法官として令名ある今村恭太郎君にして、これが弁護をなす者は法曹界の傑物花井卓蔵君なり。人あり、罪を犯す、罪を犯す、故にこれを罰す。人生は斯くの如くにして万事解釈し得べきものなるかな。殊にに況んや、青年に恋愛あり、恋は盲目なり、青年恋に盲して惨たる境遇に墜つ、堕つるもの固より罪あり、然れども未だ堕ちざるに、これを救ふの道なきかな。男三郎を研究するは、刑事裁判上の資料に供し、兼て又人生を研究するなり、恋愛を研究するなり。余は生ける教訓として茲にこれを諸君に薦むるものなり。

明治39年 122ページ

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