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明治初期の蝦夷探訪記 限定600部 アイヌ文献としても貴重で蝦夷史に不可欠の一読の書 川上澄生が装幀をしながら不出世の憂き目にあったもの

川上澄生が昭和29年に装丁をしながら不運にも不出世の憂き目にあったものである。
川上澄生オリジナル版画色刷り1を添付明治初期アイヌ風俗写真及びスケッチ画600部限定番号入り

白老・平取のアイヌ部落を訪れアイヌ民俗を詳しく記述していてアイヌ文献としても貴重なものであり蝦夷史に欠かせない一読の書である。

この辺地を単身旅行をした最初のヨーロッパ婦人としてこの旅行は誠に記念すべきものであった交通施設の整わない当時である乗り物とては人力車か馬しかなかった上、宿・食物何ひとつとってもヨーロッパ婦人に間に合うものはなかった。その中を47歳の著者は淡鳶色の縞のツイードの短衣、編上靴、竹の子笠という出で立ちで携帯品としてはリビーの肉精、干葡萄四ポンド、食用及び飲料のチョコレート若干非常用として少量のブランデー、馬の革の鞍と手綱、最小限の着替え,外套、地図、アジア協会雑誌一揃、それに英和辞典を携えて旅をしたのである。それは旅行というよりは一種の探検であった。

女性はその見聞を女ならではと思われる繊細な行き届いた観察と筆致で報告している。文章もまた美しい100年前の未だ開花に染まぬ日本の辺境の姿をこれまでに描写したものはないと言っても過言ではない。単に著者がヨーロッパの女性であったとか珍しいところに行われたというばかりでなく、その目の付け所が卓抜で文章も稀に見る名文なのである。
外国人の日本旅行記は勿論わが国でもこれだけ内容の豊富な芸術味に富む旅行記は見当たらず、また旅行記としてだけでなく日本の文明史の研究にも極めて重要な文献である。ことに北海道の旅。中でもアイヌ部落訪問の記事は圧巻である。途中の自然の美しさ荒々しさ淋しさの描写もさることながら、そこを舞台に働く開拓者の狡猾さ残忍さに対比してその圧迫を受けて没落の寸前にあるアイヌのおとなしさ、純真さ、そして惨めさが、未だ亡びない昔のままの生活と共に手に取るように生き生きと伝えられている。もちろん僅か数日間の滞在である。観察に皮相なところがありその解釈にも独り合点が少なくないが、まだ原始の姿を止めるアイヌの生活をこれほど生き生きと描き出したものはなく、この方面でも貴重な資料である 昭和52年 172ページ 600部限定

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